やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 羞恥を誤魔化すように彼がコホンと咳払いした。

「あ、明日は空けておいてくれよ。それまでにはどうにか仕事を片付けておくから」
「はい。でもいいんですか? 確か吉本機械工業との会合がありましたよね?」
「それは井原くんに任せることにした。彼には次のプロジェクトでリーダーをしてもらうつもりだからな。あちらの担当者にも慣れてもらわないと」
「えーっ、いいなぁ。私もリーダーをやらせてくださいよ」
「君はまだまだ実力不足。僕はこういうことで公私混同しないから」
「武田常務なら私にやらせてくれるかもしれないのに」
「僕は常務じゃないからね」
「部長のケチ」

 私はプイッとそっぽを向いた。口を尖らせるのも忘れない。

 あのなあ、と部長の声。

 ふふっ、困ってる困ってる。

 部長のリアクションが面白くて私は思わず笑いたくなる。けど、我慢我慢。