やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 *

「はぁ……」

 暗めの照明とムーディーな曲が静かに流れるバーのカウンターで私はため息をついた。

 この店はカドベニ本社の最寄り駅から二つ先の駅に近いところにある小さなバーだ。中森さんの馴染みのお店らしい。私は会社帰りに彼女に誘われて来店していた。

 こういう店は知らない訳じゃないけど滅多に利用しないので居心地は少々悪い。でもそれはお店のせいではなくて全て私のせいだ。

 セルフダメージになりそうだけど私がこんなお店に向いてないのはわかっている。

 はいはい、どうせ子供っぽいですよ。けど、私これでも二十九歳なんですよ。アラサーなのに子供っぽいとはこれ如何に?