やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 部長の気持ちがわかっている私は相当に油断していた。

 だから、顔を真っ赤にしつつも訊いてきた三浦部長の低い声に私はドキリとしてしまった。

「ところで、この店に来たことあるのか?」
「えっ」
「さっき食べてもいなかったのにここのチキンカレーが美味しいとか言ってたよな? 注文も迷いがなかったし……ひょっとして以前にも来たことがあるのか?」
「……」

 ば、ばれてる?

 いやいやいやいや、仮にばれていても慌てるな私。北沢さんと来たってことを知られなければこの場は切り抜けられるはず。

 私は中空に目を走らせた。そこにカンペでもあればどんなに良かったことか。

 しかし、そんなものはない。どうしてないのか神様に問い質したいのだがその余裕もなさそうだ。