やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 ちっ、とまた舌打ちして北沢副社長は提案を撤回した。

「あーやめやめ。興が醒めた。帰るぞ」
「はい」

 北沢副社長がくるりと背を向け、先輩がそれについていこうとする。

 部屋の外に出かけた北沢副社長が足を止めた。

「そうそう」

 彼は振り返った。

「中森の娘と友だちになってくれてありがとうよ。あいつはいろいろと誤解されがちなんでな。ネットだと友だちを作れる癖にリアルだとさっぱり駄目なんだ。良い子だってのは俺が保証する。だからこのまま仲良くしてやってくれ」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 私が頭を下げると副社長が声音を変えた。

「もしあいつを裏切るような真似をしたら絶対に許さねぇからな」
「……」

 あわわわ。

 私、どえらい子と関わっちゃったなぁ。

 じゃあな、と言って北沢副社長たちは去って行く。

 ……悪い人じゃないんだよね。

 あのタヌキおじさんも誤解されやすいだけなんだよね?

 この場にいない中森さんに私はそう尋ねるのであった。