やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 壁の黒板に白いチョークで「サツマイモのタルトのセット」と「アップルパイのセット」と書かれていてどちらが美味しいのだろうと私は少しだけ自分にせっついてくる感情を忘れた。

「好きな物を頼んでいいぞ」

 三浦部長がメニューを私に差し出してくる。彼は何だか不機嫌そうにむすっとしていた。自分で気づかぬうちに彼を怒らせてしまったのではないかと内心不安になる。

 せめてここは早めに注文を決めよう。もたもたしていても部長の機嫌を悪化させるだけだし。

 私はサツマイモのタルトのセットにしようとして口を開きかける。

 三浦部長が言った。

「これを夕食にしてもいいんだからな。でもスイーツだけで腹を満たそうとするなよ」
「……」

 えーっ。

 さっき「好きな物を頼んでいいぞ」って言ったくせに。