やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私が二人を見ていると優子さんがゆっくりと手を伸ばして部長の片手に触れた。深く呼吸をすると彼女は静かにささやく。

「たっちゃん……いなくなっちゃ駄目だよ」
「……」

 三浦部長だけでなく私も息を呑んだ。

 私はお昼に優子さんから送られたメッセージのことを思い出した。それと同時に不安が胸の奥から渦巻いてくる。

 北沢副社長は三浦部長の後任を選ぼうとしている。

 それが意味するものは。

「たっちゃんのいない会社なんて豆腐のない麻婆豆腐みたいなもんだよ。でなければチャーシューのないチャーシューメン。あとは味噌とダシと具のない味噌汁とか?」
「最後のはもうただのお湯だろ」

 優子さんが部長の肩から顎を離した。自然、彼女の手も部長の手から離れる。