やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 北沢副社長が武田常務に勝ち誇ったような笑みを向ける。

「忠義のある部下のおかげで命拾いしたな」
「私は三浦部長の辞表を受け取るつもりなどありませんよ」

 武田常務の言葉はどうしても負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。

 私はいつの間にか震えていた自分の手を膝に押し当てて止める。酷く喉が渇いていた。

 思うより先にローテーブルの上の紅茶に手を伸ばした。喉を鳴らして冷めかけた紅茶を一気にあおる。

 カチャリと音を立てながら空のカップをソーサーに置いた。

 立ち上がる。

「待ってください」

 自分でも吃驚してしまうほど冷静な声だった。