やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私は隣のコートを指差した。

 デザインは一緒だが色は異なる。しかし、マフラーと組み合わせても違和感のないチョイスだった。

 ただし私なら買わない。この色に合う服を持ってないからだ。

「これなんか素敵ですよ」
「そうだな」

 ちらり。

 三浦部長の視線が私に絡みつく。また心音がざわめきだした。私、このままだとどうにかなりそう。

 意識して彼の視線を無視する。とくんとくんと打ち鳴らす鼓動が自分の物ではない気がして私はうろたえた。これまずいこれまずいと声に出さずに連呼する。

 この動揺が彼に知られませんようにと願った。