やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 にやり。

 北沢副社長の口が弧を描いた。

「ま、俺はお前さんよりもっと偉くなったけどな。誰が何と言おうとこの差はでかいぜ」

 武田常務が悔しげに唇を噛む。

 北沢副社長は愉快げにガハハと笑い、再度私と三浦部長を見た。

「てことでこいつらはクビだ。明日までに辞表を書かせろ」
「……もし断れば?」
「んなもん決まってるだろ、お前さんの管理責任も問いてやる。あれだぞ、取締役会への根回しなんて半日もあれば余裕のよっちゃんだからな」
「副社長ッ!」

 一際大きな声が室内に響いた。

 ソファーから立ち上がった三浦部長が北沢副社長を睨んでいる。イケメンの彼がこんな厳しい表情をすると普通の人よりも何倍も怖い。

 きっと五歳児なら泣く。

 わんわん泣く。

 というか私も泣く、かもしれない。