やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 武田常務が言った。

「そうやってごまかしておきながら後でボイスレコーダーを出してきたことがありましたよね?」

 ちっと、北沢副社長が舌打ちする。しかし、彼は一瞬のうちに表情をにこやかなものへと変じた。

「よく憶えてるじゃねぇか。それやったの十五年くらい前だぞ」
「……」

 私は耳を疑った。

 え?

 このタヌキおじさん、そんな汚いこともするの?

「あのときはまだ副社長が社内環境部の部長でしたね」
「お前さんも第一事業部の部長だったよな。お互い偉くなったもんだ」