やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「もう起きてしまったことだ。過ぎたことに拘っていても何もならないよ。それよりもこれからどうするべきかを考えるほうが大切だろう?」
「そうですが……」

 三浦部長の苦しげな声に私は唇を噛む。

 彼にそんな声を出させてしまったのは私だ。本当に情けない。

「三月の新商品の件だが、進捗具合はどうなんだい?」
「問題なく進んでいます。三%のズレもありません。広げるつもりでいた販路も順調に拡大しています」
「そうか」

 うんうんと武田常務が首肯する。幾分かさっきよりも口許が緩んでいた。細められた目は自分の子供を見ているかのように穏やかだ。

「昨夜のことがなければヨツビシ側ともこのままうまくやれていただろうね。だが、これからはどうなるかわからない」

 武田常務が中空に視線を走らせた。

 その表情はとても硬い。