やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない


 *

 翌日。

 朝方からどんよりと曇っていた空は数時間後には小雨を降らせていた。冷たい冬の雨はただでさえ落ち込んでいた私の気持ちを暗くさせる。

 昨夜ヨツビシ工業の釜本を殴った件で三浦部長と私は武田常務の部屋に呼び出されていた。

 高価というよりは品のあると表現したほうがいいソファーセットに座っているのは私と三浦部長それに武田常務の三人だ。ローテーブルを挟んで奥に武田常務、壁側に私と三浦部長。ローテーブルの上には常務の秘書が淹れてくれた紅茶が人数分置かれている。良い匂いが鼻腔をくすぐるけどとても口をつけられる雰囲気ではない。

「さて、困ったことになったね」

 しばらく黙って紅茶を見つめていた武田常務が眉をハの字にさせて言った。