やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 鋭い怒声が私の後ろから飛んできた。まるで言葉で殴られたみたいにロバがビクリとする。止まった足に私は応じられず前のめりになってロバの背にぶつかった。それを合図にしたみたいにロバの手が私の手から離れる。

 ロバが荒々しく肩で息をした。彼の興奮があたりを振るわせているようだった。空気にすら彼の熱を感じる。

 駆け足が私に近づいてきた。

 想像よりもずっと速いその足音が全力疾走だと認識するより先にバキッという鈍い打撃音へと変じる。

 えっ?

「まゆかをどこに連れて行くつもりだ!」

 殴られて路面に倒れたロバを三浦部長が見下ろしている。至近距離にいるのが怖いくらい表情が険しい。