やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 ロバが自然な動きで私に近寄ってくる。

 私は彼への意思表示を込めてあえてわかるように一歩身を退いた。

 ロバの顔に変化はない。

 この人は全く私の気持ちがわからないのだろうか。

 それとも、わかっていてなお私に近づこうとしているのか。

 真意を測りかねて私はぎこちない笑みを深くする。相手が取引先の人でなければとうの昔に拒否しているのに……と内心で毒づいた。ちなみに私の想像の中でロバは十回以上グーで殴られている。

「思ったんですけど」

 ロバが私にだけ聞こえるような声でささやいた。吐きかけられた息がビール臭い。しかもカレーの匂いも加わっているから始末が悪い。