やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない


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 三月の新商品について三浦部長とネズミおじさんが話をしている脇で私はその食欲を満たすべく手と口を動かしていた。完全に色気より食い気である。

 チキンカレーにジャガイモをつけて食べようとするとロバが声をかけてきた。

「大野さんはご結婚されているんですか?」
「いえ、独り身です」

 答えて私はカレー味となったジャガイモにぱくついた。噛む毎に口の中で香味とホクホク感が広がって更なる食欲を誘ってくる。

 ロバの無粋な質問がなければもっと美味しく思えたかもしれない。

「へぇ、俺も独身なんですよ」

 ロバがやや身を乗り出した。その視線が私に注がれていることに今さらながら気づく。しかも何だかいやらしい。