やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「えっと、お気持ちは嬉しいんですけど遠慮しておきますね」
「ん? 別に遠慮しなくてもいいんだぞ。お前のために買ってやりたいだけなんだからな」
「それ、他の子が聞いたら誤解しちゃいますよ」
「誤解も何もお前にしか言わないし」
「そういうところですよ」

 私が口を尖らせて指摘すると北沢さんは不思議そうに首を傾げた。その仕草はちょっと可愛い。

 買ってやると要らないを繰り返しているうちに駅に着いた。コンコースには沢山の人がいてほんの僅かだけど外より暖かい。北沢さんの抵抗はあったけど私はさすがに恥ずかしくて堪らないので繋いだ手を放してもらった。

 北沢さんの温もりを失った手はその温度を求めるように冷えていった。しかし、私はあえてそのことを考えないように努める。

 代わりに頭を下げた。

「先輩、今日はごちそうさまでした」
「本当ならまゆかをお持ち帰りしたいんだけどな」

 先輩が悪戯っぽく笑む。