やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない


 *

 タクシーでアパートまで送るという北沢さんの申し出を私は断った。

「じゃあせめて駅まで送らせてくれよ。いいだろ?」
「あ、はい」

 少し気圧されて私はうなずいてしまう。

 私の片手はまだ北沢さんのコートのポケットの中だった。

 しかも北沢さんの手と繋がったままだ。時々彼が指で私の手のひらを擦ってくるのでそれが妙にくすぐったい。痛いのなら拒否できるのだけれどそうではないから困ってしまう。

 ううっ、三浦部長ごめんなさい。

 別に部長と恋人関係でも何でもないのに罪悪感を覚えてしまう。

 私は北沢さんの手から逃れようとしかけてはやめるを繰り返した。