やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 早鐘のように打ち続ける心音が頭の奥まで響いてくる。くらくらとしてきた私は口をぱくぱくとさせてしまい言葉を接げなくなった。

 北沢さんがポケットの中で自分の指を私の手のひらに擦りつけてくる。くすぐったさと恥ずかしさが同時に押し寄せてきてどうしたらいいかわからなくなってきた。

「まゆか」

 先輩の声が甘い。いつもよりずっと甘い。

「俺、本社から離れて思い知ったんだ。自分がどれだけ大切に想っていたかってな。傍にいたい、ちゃんと傍にいて守りたい、離れていたからこそそのことを強く認識したんだ」
「……」

 どうしよう。

 頭がぼうっとしていて先輩が何を言っているのか理解できない。

 て、手を繋いだのは私が寒そうにしていたからだよね?

 これ、先輩の優しさなんだよね?

 深い意味は無いよね?

 かろうじて浮かんできた言葉はどれも疑問形で何だか的外れな気がして私は声にするのを諦めたのであった。