やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 遠くで救急車のサイレンが鳴る。

 輪唱でもするように近所の犬が吠えだした。一匹また一匹と遠吠えがリレーされていく。

 ぼんやりとその吠え声を聞いていると北沢さんが私の手を握ってきた。

「……っ!」

 吃驚して見上げると悪戯っ子みたいな笑顔と出会った。イケメンの北沢さんにそんな顔をされるとどんな悪戯も許してしまいたくなってくる。

「手、冷たいな」

 そう言って北沢さんは私の手を握ったまま自分のコートのポケットに手を突っ込む。彼の温もりがじんわりと伝わって否応なく胸をとくんとさせた。

 驚きで麻痺していた恥ずかしさがしだいにはっきりしていく。

「あ、あの先輩?」

 耳が熱い。それだけではなく顔中が熱い。