やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「あの、もう少し詳しく……」

 私が言いかけたとき「いらっしゃいませぇーっ!」と店員が来店した客に挨拶した。店の入り口からはスーツ姿の人たちがややテンション高めにぞろぞろと入ってくる。一、二、三……八。うん、八人のお客さんだ。

 これテーブルごとに分けて座ってもらわないといけないね、と半ば店員気分で眺めていると彼らはパーテーションの奥へと導かれていった。どうやらあちらは団体向けの席のようだ。

「おやぁ? ひょっとしてカドベニの北沢さん?」
「あっ、ヨツビシの」
「……っ!」

 団体のほうに注意が向いていたせいで私はもう一人のお客に気づけなかった。

 その顔を目にしたとき数日前の記憶が蘇り、私は一瞬呼吸を忘れる。

 ぞわっと背中に不快感が走ったのはもうどうしようもない。だって生理的に嫌いなんだもん。