やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 後ろ足で立った象が長い鼻から噴水のように水を撒いた。水はアーチを描いてキラキラと輝いている。

「まゆか」

 北沢さんの声に私の想像は霧散する。

「第二事業部って三月に売り出す新商品を抱えているんだろ?」
「あ、はい」

 私が肯定すると彼は二重瞼の目を細めた。

「あれだよな。俺が聞いた話だとヨツビシ工業の福西(ふくにし)部長が直接うちの担当をしてくれてるっていうじゃないか。あの人ちょっとおかしいから大変だろ?」
「ええっと、私、メインの担当じゃないんですよね。一応チームの一員ですけどあくまでもそっちの仕事はサポート程度なんで」

 ちなみに私が主に出向くのは千葉方面の会社だ。
北総工業とか習志野産業とか千葉コイルなんかが大口の取引先である。

 ヨツビシ工業は北沢さんが福岡に飛ばされる前まで任されていた取引先だった。現在はうちのベテランが引き継いでいる。