やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない


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 社内環境部人事課は五階にある。

 一階にあるエレベーターを呼ぶより階段を使ったほうが早いのでそちらを選ぶ。早足で階段を降りて五階の廊下に出ると、エレベーターの前に見覚えのあるすらりとした人物がいた。

 ふんわりとした茶髪は最後に会ったときと変わらない髪形だ。

 昨年の春に本社を離れたっきりの先輩は私に気づいたらしく片手を上げて声をかけてきた。

「まゆか、久しぶりだな」

 二重瞼の目が嬉しそうに細丸。形が良くて薄い唇は一体何人の女性を虜にしてきたのだろう……て、それじゃ新村くんか。

 すっきりとした顔立ちはいかにも日本人っぽいのだが髪の色や髪形がチャラさを強く印象づけていた。