やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「武田常務が女性社員に部長を任せようとしてたんだけどそこに北沢副社長が待ったをかけたの。ほら、副社長には地方に飛ばされ……じゃなくて転属中の息子さんがいるでしょ? その人を本社に呼び戻して第三事業部の部長に据えたいみたいなのよ」
「ふむ」

 三浦部長が中空を見遣る。考えを纏めるかのように数秒彼は黙った。

 へぇ、北沢副社長って息子さんがいたんだ……。

 てか、副社長の身内なのに地方に飛ばされちゃってるんだね。

 軽い驚きを伴いつつ私はそんなふうに思ってしまう。

 まあ、偉いさんの子供だからってみんな本社勤務じゃないといけないって規則もないしね。

 そんな規則があったら私なんか居る場所もないだろうし。

「北沢くんか」

 三浦部長の声が漏れる。

 部内には私と三浦部長と優子さんの三人がいるだけでとても静かだ。そのせいか彼の声は小さくてもよく聞こえた。