やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 何だか胸がドキドキしてくる。私のような庶民には心臓に悪い。

 ふむ、と息をついて三浦部長が告げた。

「実は恵方巻は松竹梅とあって真ん中の竹にしたんだ。さすがに梅はないだろうと思ってね。でも、みんなにご馳走するんだから松でも良かったかもな」
「いやいやいやいや」

 私は全力で否定した。ここ最近でこんなに否定した記憶はない。それはもう首がもげるのではないかというくらいブンブン振った。

 あと、松の値段は聞きたくない。

 まあ、聞いてもどうせ買わないけどね。

「た、竹で十分ですから。何なら梅でも大丈夫です」
「そ、そうなのか」

 気圧されたのか三浦部長が引き気味に応えた。表情が僅かに引きつっている。

 恵方巻と言えば去年は会社の最寄り駅近くのお寿司屋のものだった。どうやら三浦部長の口ぶりだと今年も同じ店で買ったらしい。

 あの店、回ってないんだよなぁ。

 入ったことないけど。