やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私は声のしたほうをギロリと睨んだ。

 営業事務の女の子たちが三人いて誰が発したのか判別つかない。あの子たちは声も似てるから発言者を特定するのは難しいだろう。

 そうこうしているうちに手空きの者から順番に三浦部長のデスクへと並び始めた。

 ちょっとした食糧の配給のような光景に私は自然と頬が緩んでくる。

 一本ずつ恵方巻あるいはフルーツロールを渡す三浦部長の表情はむすっとしていたが彼を知っている者ならば平常運転だとわかるレベルだった。

 女子部員の一人がスマホで吉方を調べその方角をみんなに教える。数人が早くも恵方巻を食べ始めた。

 電話を終えた私も恵方巻をもらいに行く。

「あんまり慌てて食べようとするなよ」