やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私は努めて明るい口調でこれ幸いと告げた。

「じゃあ私階段だからここで」
「えっ」

 戸惑ったように新村くんが尋ねる。

「エレベーターじゃないの? 第二事業部って八階だよ」
「あーそっか、ダイエットね。ブタになりたくないもんね♪」

 中森さんが地味に毒を放り込んでくる。彼女は私がコンビニでお握りを三個買ったのを知っている。

「ブタになるわよ」と言ってきたのも彼女だ。

 これに応じたら長引きそうな気がして私は曖昧に笑ってやり過ごすことにした。

 もう一度「じゃあ」と言って階段のほうへと足を向ける。

 すぐに後ろから手が伸びて私の越しに回された。いきなりのことに吃驚して相手を見上げるとそこには新村くんがいた。