やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「大野さ……」

 新村くんが言いかけたとき通りがかった男子社員のスマホが音を鳴らした。軽快なメロディは最近よくテレビでやってるCMのもので思わず頭にその映像を想起してしまう。

「ふぅん」

 気まずさから逃れたい一心でその男子社員を目で追おうとすると中森さんが横目で睨んできた。

 私は再び苦く笑む。ひくひくと痙攣する頬が「一刻も早くここから離脱したほうが良くね?」と訴えてくる。

「聖子」

 新村くんが彼女に向いた。

「昨日も言ったけど、俺、大野さんと結婚を前提に付き合うから」
「あたし別れないよ」

 中森さんはすかさず言葉を接ぐ。

「二人でお誕生日会をしたときに言ってくれたじゃん。あたしたち百歳になってもずっと一緒だよ♪」
「……」

 私はジト目で新村くんを見つめる。