やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 自分の話をしているうちに私のことはどうでも良くなったのか、会社に着くまで中森さんから「彼」のことを訊かれることはなかった。

 *

 いつものように老齢の守衛さんに挨拶して社屋に入ると何人かの馴染みの顔がぎょっとした表情を向けてきた。

 ひそひそと声が聞こえてくる。

 断片的に漏れ聞こえてくる内容から昨日の私と中森さんのことだと理解できた。

 まあそうか。

 昨日揉めていたのに今朝は仲良く出勤しているんだからそりゃ噂話にもなるよね。

 てか、あの人たち秘書課の子と人事課の子だ。

 わぁ、また後で優子さんの襲撃があるかも。

 面倒くさいなぁ。

 などと思っていると背後から声をかけられた。