やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 全くもう、と不満たっぷりに中森さんがむくれながらあたりを見回した。

 私も彼女の視線を追う。次の電車を待つ人以外が改札へと向かったからかホームに残された人数は少ない。このホームにも酔っ払いがいたがそのおじさんはベンチに座ってカップ酒を片手に機嫌良さげに歌っていた。たぶん昭和の演歌だ。実家の父がたまに風呂場で熱唱していたのを憶えている。歌は酔っ払いのほうが上手だった。

 中森さんが私に視線を戻して尋ねてくる。

「それで、これからどうするの?」
「どうするって……」

 次の電車に乗ればいいのでは?