やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私はネズミおじさんの後ろに回って思いっきり肩を引っぱる。あっけなくおじさんの手は中森さんから離れた。酷く酔っ払っているからしっかり掴んでいられなかったのかもしれない。

 電車が駅のホームに入り、停まる。慣性で進行方向へと傾きよろめきかけた。ネズミおじさんがふんばりきれず前のめりに崩れる。

 さっと中森さんが彼を避けた。支えるもののない彼はそのまま転ぶ。手をつかずに顔から突っ込むように倒れたからすごく痛そうだ。

 電車のドアが開く。

 私たちを避けるように乗客たちが降車しだした。興味ありげに、あるいは迷惑そうに私たちを見る人はいるけど声をかけたりする人はいない。駅のアナウンスがどこかよそよそしく聞こえた。外の空気の冷たさが車内に流れ込んでくる。

「……っ!」

 思いついた私は中森さんの手を掴んだ。