やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「おねぇちゃん、一緒に飲んでくれないのぉ?」

 ネズミおじさんが少し寂しそうに声のトーンを下げた。眉をハの字にして叱られた子供のようにしょげている。尻尾があったらだらんとなっていただろう。

 中森さんが怒鳴った。

「飲む訳ないでしょ! 息臭いんだからあっち行ってよ!」
「……」

 中森さん、容赦ないなぁ。

 車窓の外の景色の速度がゆっくりになっていく。流れていく街の明かりが緩やかだ。見慣れたパチンコ屋の照明がもうすぐ次の駅だと教えてくれる。

 ネズミおじさんがぼそぼそと何か言った。小さすぎてよく聞こえない。ガタンゴトンという電車の音に紛れてしまっている。

「……けやがって」
「はい?」

 尻上がりにボリュームを上げたネズミおじさんの声に今度は私がきょとんとしてしまう。