やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「……」

 中森さん。

 息しないと死んじゃうよ。

 とは言えず。

 というかどうしよう。

 私はあたりを見回した。起きている乗客はみんな見て見ぬふりを決め込んでいる。確かに関わりにならないほうが無用なトラブルに巻き込まれずに済むけど、それでいいのかな。

 うーん、私、見ちゃったしなぁ。

 一応、全く知らない間柄って訳でもないし。

 数秒迷ってから私はドアから離れた。

 電車のスピードが落ちていく感覚が伝わってくる。次の駅がもうすぐなのだ。