やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「一区切りしたら拓也ももうちょっと先のことを意識しないとな」

 闇に落ちかけた私の眼前を武田常務の言葉が走り抜ける。はっとした私は反射的に三浦部長へと顔を向けた。

 思いがけず彼と目が合ってしまい顔に熱が集まる。とくんと胸が鳴った。

 一度乱れた心音はとくんとくんとそのリズムを速めていく。横には常務もいるのに、と慌てる私とときめきを高める私とが心の奥でぶつかった。その衝撃のせいか頭がくらくらとしてくる。

 私は逃げるように俯いた。取り繕うようにつくねに手を伸ばす。

「常務、あのことなんですが」

 三浦部長が重い口調で言った。

「どうしてもお引き受けしないと駄目ですか?」
「あのこと?」

 答えを知っていてあえて尋ねている、そんな感じの声だった。

 武田常務が笑んでいると容易にわかる。ちょっとだけ彼を嫌いになりそうになった。