やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「別に待ってはいなかったんだけどね」

 やや冷淡な口調で武田常務が返す。三浦部長はさして気にした様子もなく自分の分の酒と料理を注文した。

「大野」

 手持ち無沙汰をごまかすように三浦部長が私に訊いてくる。

「社内でケンカしたって本当か?」
「……」

 あれってケンカなのかなぁ?

 私は返答に困って三浦部長から目を逸らす。中空にやった視線はカウンターの向こうの天井へと辿り着いた。薄く汚れた天井の二カ所には照明があり、間に挟まるように業務用のエアコンが設置されている。

 ああそうか厨房って熱がこもりやすいもんね。

 エアコンも普通のじゃ間に合わないか。

 ついでにお叱りモードになってる部長の熱も冷やしてくれないかな。