やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「話ちゃんと聞いてる? それとももう飽きちゃった?」
「……」

 常務。

 それ何だか彼氏に冷たくされて拗ねてる彼女さんみたいです。

 とは言えず。

 私は首を振った。

「あ、飽きただなんてそんなことないですよ。えーと、少し考え事をしてしまいました。ごめんなさい」
「考え事?」

 武田常務が促すように私を見る。数秒の沈黙がひどく長く思えた。炭火のぱちぱちという音がやけに大きく聞こえる。

 私が答えられずにいると常務は諦めたように「ま、いいや」とつぶやいた。

 彼は砂肝の串を手にすると一切れ食べる。もぐもぐと咀嚼して飲み込んでから話を戻した。

「通常は海外事業部を経て赴任していくんだけど三浦部長も三十五歳だからねぇ。決して遅い訳じゃないよ。でも、通例からすれば三十前にはある程度の道筋が出来上がってるもんだからね」