やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 私が言い終えると武田常務が「ふむ」と息をついた。五十五歳にしては若くて美しい顔が微笑から何かを考えるふうなものへと変わる。

 私はその横顔を眺めた。

 何の免疫のない女子社員なら一瞬でくらっとしてしまいそうな麗しさ。彼のファンがここにいたら黄色い悲鳴を発していたに違いない。というか私が彼と二人きりで飲んだことがバレたら彼女たちの抹殺リストに載ってしまうのではないか。

 うん、これバレたらやばい。

 でも、明日には広まってるんだろうなぁ。

 何しろみんなの前で誘われたんだし。

「実は取締役会で三浦部長の話が出ていてね」

 こっそり秘密を打ち明けるような口ぶりで武田常務が言った。