やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 中森さんの退場から一時間後。

 私はオフィス街の片隅にひっそりと佇む焼き鳥屋に来ていた。

 カウンターの他に四人がけのテーブルが二つしかない店内には炭火で焼かれた鶏肉の香ばしい匂いが漂っている。肉を焦がす音が食欲を誘い、頑固そうな店主の串捌きが目を楽しませてくれた。奥さんらしき女性店員も美人で着物がよく似合っている。雰囲気のとてもいい店だ。

「遠慮せずにどんどん食べてね」

 私と並んでカウンター席に座る武田常務はとても上機嫌だった。