やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「理由はどうあれ暴力はやめようね」
 やんわりと言うと武田常務がにこりとした。ひょっとすると三浦部長のほうが年上なのではないかと錯覚してしまうほど若々しい笑顔である。

 おまけに超絶美形だ。

 髪も黒々としていて薄毛や白髪とも無縁。私の実家の父がここにいたらきっと悔し涙を流すに違いない。何せ武田常務とほぼ同年代なのに彼の生え際は風前の灯火なのだから。

「ああっ、もう!」

 一声吠えると中森さんが抵抗を止めた。極道の女モードも解除したようだ。やはり低音より高音のほうが彼女に似合っている。こっちの声で通せば可愛いのに。

「わかりました、わかりましたからもう放してください!」
「乱暴なことしない?」
「しません」

 彼女が応じると武田常務は念押しするように訊いた。

「落ち着いて話をするって約束できる?」