やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 パァンパァン。

 ゆっくりと打ち鳴らされたその音に私も詰め寄ってきた彼女も硬直する。まるで魔法をかけられたかのように私たちの時が止まった。

 制止した世界で拍手した人物だけが動く。

 人だかりから悠然とした態度で現れた彼は私たちに近づいてきた。

 一歩が大きい。一八〇センチはあろう身長のせいもあるが年齢を感じさせない歩き方だ。

「中森さん」

 手の届きそうな距離まで来ると彼は彼女に言った。

「理由はわからないが人前で醜態を晒すこともないと思うよ」

 時が動き出す。

 中森と呼ばれた彼女はむすっとした表情で私から離れた。一つ息を吐き、ギロリと私を睨んでから彼に向き直る。