やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 無言で助けを訴えるものの、わざわざ争いに身を投じてくれるような勇者はいないようだ。でもここは株を上げるチャンスだと思うよ。少なくとも私の中では株が上がる。

 もう一度視線を投げた。

 あっ、何人か私から目を逸らした。

 最低。

 その顔憶えたからね。

「よそ見すんな!」

 彼女が激昂した。

「あたしは怒ってるんだからね。あんたはあたしに詫びを入れて彼から手を引かないといけないの! わかる? それともその汚い首の上に乗っかっているのはお飾りかしら? 胸だけじゃなく脳味噌も足らないのかしら?」

 くっ。

 さすがに人前で侮辱されるとかちんとくる。

 私はぎゅっと拳を握った。殴るつもりはない……いや、本当は殴りたいけどここは我慢だ。

「あ、あなたね……」

 私が言いかけたとき、ぱぁんぱぁんと両手を打つ音が通路に響いた。