やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 意識を向けると肩まである茶髪を細かくウェーブさせた女子社員がこちらを睨みつけている。視線だけで私を呪い殺さんばかりの鋭さだ。

 顔は可愛いのに目つきで台なしになっている。いや、これはこれで好きな人には堪らないのか?

「大野まゆか」

 彼女の薄い唇がゆっくりと動く。普段なら小鳥のさえずりのような愛らしさであろう声が怨霊の呪詛のようにおどろおどろしい。

 これが地声なら私は耳鼻咽喉科に彼女を連れて行く。絶対に連れて行く。

「あなた、大野まゆかよね?」
「えっ、あ、うん」

 どう見ても私より年下な彼女に気圧され、一歩退きながはらうなずく。

 彼女はエレベーターを降りた。勢いのまま私に詰め寄ってくる。