やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「ところで」

 新村くんの声で私は考えるのを止めた。

 彼は空になったお弁当箱を見ている。

「これ、大野さんが?」
「あ、うん」

 特に否定する理由もないので私はうなずく。

 新村くんが眉を下げた。少し肩を落として彼は嘆息する。

「そっか。うーん、もうちょっと早くここに来れたらなぁ」
「ふむ」

 三浦部長が一つ息をついた。

「美味かったぞ」

 やや口角を上げて彼は告げる。どこか勝ち誇った口調だった。

 新村くんが視線を三浦部長へと移す。一瞬だけ険しい顔をしてすぐににこやかなものへと変えた。でも心なしか彼から黒いオーラが漂い始めた気がする。室温も急に下がったような……。