.
.
.




さっきまで乗っていたタクシーが遠ざかってゆく。
道の先に消えるまで、ぼんやりと見送っていた。


それから、ブーケを抱えて、歩きだす。
サンセットが、随分と弱ってきていた。


夕焼け、というものは何を焦がしているのだろう。

恋焦がれるとは、難しい。誰かが焦がされてゆくのも、誰かが焦がしてゆくのも、私は見たことがある。百聞は一見にしかずというけれど、聞いてみても、見てみても、まるで分からないものがこの世界にはたくさんある。



ブーケの端、かすみ草から夜に染まっていこうとしていた。
だんだんと、紺色の及ぶ範囲が広がっている。

マーメイドワンピースの裾が、舞う。


海猫、九羽目。


絶対に同じ海猫をカウントしないことが、私たちだけが知っているあの頃の私の特技だった。


鳴き声がする。

はじめて私が鳴き真似をした日に、なぜか猫がよってきた。
その日から私たちは、時々、ツナの缶詰をもって海へ行った。


零れてしまった過去に、ささやかな海猫の鳴き声が滲む。



海辺へと続くコンクリートの階段へ向かう前に、
私のつま先は、引きつけられるように別の場所へと向かっていた。