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さっきまで乗っていたタクシーが遠ざかってゆく。
道の先に消えるまで、ぼんやりと見送っていた。
それから、ブーケを抱えて、歩きだす。
サンセットが、随分と弱ってきていた。
夕焼け、というものは何を焦がしているのだろう。
恋焦がれるとは、難しい。誰かが焦がされてゆくのも、誰かが焦がしてゆくのも、私は見たことがある。百聞は一見にしかずというけれど、聞いてみても、見てみても、まるで分からないものがこの世界にはたくさんある。
ブーケの端、かすみ草から夜に染まっていこうとしていた。
だんだんと、紺色の及ぶ範囲が広がっている。
マーメイドワンピースの裾が、舞う。
海猫、九羽目。
絶対に同じ海猫をカウントしないことが、私たちだけが知っているあの頃の私の特技だった。
鳴き声がする。
はじめて私が鳴き真似をした日に、なぜか猫がよってきた。
その日から私たちは、時々、ツナの缶詰をもって海へ行った。
零れてしまった過去に、ささやかな海猫の鳴き声が滲む。
海辺へと続くコンクリートの階段へ向かう前に、
私のつま先は、引きつけられるように別の場所へと向かっていた。
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さっきまで乗っていたタクシーが遠ざかってゆく。
道の先に消えるまで、ぼんやりと見送っていた。
それから、ブーケを抱えて、歩きだす。
サンセットが、随分と弱ってきていた。
夕焼け、というものは何を焦がしているのだろう。
恋焦がれるとは、難しい。誰かが焦がされてゆくのも、誰かが焦がしてゆくのも、私は見たことがある。百聞は一見にしかずというけれど、聞いてみても、見てみても、まるで分からないものがこの世界にはたくさんある。
ブーケの端、かすみ草から夜に染まっていこうとしていた。
だんだんと、紺色の及ぶ範囲が広がっている。
マーメイドワンピースの裾が、舞う。
海猫、九羽目。
絶対に同じ海猫をカウントしないことが、私たちだけが知っているあの頃の私の特技だった。
鳴き声がする。
はじめて私が鳴き真似をした日に、なぜか猫がよってきた。
その日から私たちは、時々、ツナの缶詰をもって海へ行った。
零れてしまった過去に、ささやかな海猫の鳴き声が滲む。
海辺へと続くコンクリートの階段へ向かう前に、
私のつま先は、引きつけられるように別の場所へと向かっていた。



