「やっぱり歩こう、風、気持ちいいし」
「助かる、サッカー部のトレーニングにもこんなきついのないよ」



気弱な声だ。
それでも、喉仏は、男の人。



瀬戸周は、私の幼なじみだった。

近所に住む同い年の男の子で、小学生の頃から、ずっと一緒にいる。小学校も中学校も同じところに通ったことはまだ納得できるけれど、高校まで一緒となれば、もう腐れ縁だ。瀬戸周は頭がいいのに、朝が苦手だから、という残念な理由を私に提示して、私と同じそれほど偏差値の高くない高校を受験した。



海に繋がる道を二人で歩く。

手にしているのは、今日返ってきたテストの答案用紙だ。
綺麗な真赤のペケが並んでいる。

周の手には、何もない。


仲がいいのに、頭の良さは全く似る気配がなく、
出会ったときから瀬戸周は賢いままだし私は馬鹿なままだ。

汗で濡れた前髪をかきあげて、周は隣を歩く私を見下ろした。



「花ちゃんがずっと馬鹿なのって、そうやって点数の低い答案用紙を海に流すからだと思う」
「この儀式をおこなうことによって、私はずっと同じ程度の馬鹿でいられるんだと思うけど」
「海には神様がいて、人魚様もいて、この世界を動かしてのよ、花ちゃん、おわかりですか」
「うわ、周、まだそれ信じてるの?」
「ううん、もうほとんど信じてないけど、神様はいると思う」
「でも、魚は頭だけで泳ぐことは、たぶん永遠にないね」
「もしそうなったら、俺と花ちゃんのせいだよ」



ふす、と周は笑うときに、少しだけ首をすくめる。
その癖は、小学生の頃から変わらずだ。