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自転車の荷台の乗り心地が大変悪いことを
瀬戸 周(あまね)は知らないのだろう。



空は快晴。

サイダーの泡が弾けた瞬間にずっととどまっているような心地でいる。



「周ー、もっと頑張って漕いで!」
「いや、もう、これ全力出し切っちゃってるから。
花ちゃんが、おっもい」
「失礼な」



立ちこぎで体を左右に揺らしながら、
自転車で坂道を行く男の背中は、大きな紺色。

バランスを崩さないように、お腹に手をましてしがみついている。
はあ、と荒い息が潮風に紛れて鼓膜に届く。

目を閉じたら、サイダーの中。




「花ちゃん、」
「なにー」
「海、綺麗。あと、俺、疲れたから、降りて」
「嫌だー。周、もうちょっとだから頑張って漕ぐ!」
「坂道のぼりながら、二人乗りって、鬼畜じゃない?」


周の背中に頬をつけたら、
息切れしているからか、とてつもなく速い彼の鼓動が鼓膜に触れた。


海が、ほど近い。
周の短い後ろ髪から、ふんわりと揺れている。

海猫は、今のところ、5羽見つけた。

明らかに、周の自転車を漕ぐペースが落ちてきている。共倒れで二人とも坂の下まで自転車にからまって転げ落ちるわけにはいかないから、渋々、荷台からおりる。