きみは幽し【完】








高校を卒業して、毎日していた電話が2日に一度になり、2日に一度だったものが一週間に一度になり、そういう具合で、いつの間にか私たちは連絡を取り合わなくなった。

長期休暇に地元で会うこともなく、
周の声も首をすくめて笑う仕草も少しずつ忘れていったのだ。


人の記憶とは、無情なものだ。忘却に、ためらいがない。
それなのに、望んでいないときに、鮮明に戻ってくる。


私は、恋を知ることもなく、ただ世界の汚さと滑稽さだけを嫌でも学び、いつの間にか大人の仲間入りを果たしていた。

その過程で、常に瀬戸周のことを一番大切に思っていた。
誰にも信じてはもらえないかもしれないけれど、本当、なのだ。

かたちが違うなりに、通じ合えている。私と瀬戸周にしか分からない文脈で、私たちは海の秘密も青々しく長い春も共有している。だから、連絡を取り合わなくても、瞳を合わせて語らなくても、少しくらいお互いのことを忘れても、大丈夫なのだ。


私はそんな夢をずっと見ていた。




専門学校を卒業する年の夏、それまでの1年半ほどずっと音沙汰のなかった周から、久しぶりに電話がかかってきた。今思えば、あれは、さよならの試験だったのだろう。だけど、気づけなかったのだ。


結局、十年以上一緒にいたって、瀬戸周は私の全てを知らないし、私も瀬戸周のことをほとんど知らなかった。

傲慢とは、甘く煮詰めた砂糖菓子のように美しい外側をしている。
だからこそ、砕け散るときは、ひどく無様だ。