きみは幽し【完】








「家族以外だったら、周のことが私は一番大切だ」



知らないうちに、さっきよりもすごい勢いで涙が溢れている。



どこかの作家が、涙は海の最小単位だと言っていた。
本当にその通りだ。

でも、涙は海と違って、とても混沌としている。
果てしなくカオスだ。


ぽろぽろと溢れる度に、周の顔が滲む。隠しておけるのなら隠しておけばいい。答えを求められることを拒み続ければいい。そう思っていた。だけど、それでは、あまりにも周に申し訳ないような気がした。


瀬戸周は、私のことばかりを考えいる。

つまらない会話を覚えていて、卒業を口実に、私だけが喜ぶようなプレゼントをくれる。自転車の後ろに私を乗せて、汗だくになりながら坂道の上までのぼる。大好きな金木犀のアイスの最初の一口と最後の一口をくれて、海猫の話にいつもつきあってくれる。

本当に、瀬戸周は、私のことばかり考えている。


焦がされたくはない。
だけど、誰か一人に焦がされてしまうのなら、周がよかった。




「離れたくない」と、掠れた声で呟いてしまう。



愛でも恋でもない。それでも、本音だった。

私は、瀬戸周と離れたくないのだ。隣にいてほしい。その感情に過不足はなかった。こんなに、残酷な人間がいるだろうか、と自分自身に対して思う。