「なんだい、なんだい」
「卒業おめでとう、のプレゼント」
受け取ると、見かけによらず重くて驚く。
「周も今日、卒業したけどね」
「ふす、じゃあ、言い直す。卒業おめでとう、という口実の元で、俺が花ちゃんにあげたかったプレゼント」
「長いがよろしい。ありがとう、周」
「うん、どういたしまして」
小さな箱をスカートの上に置いて、
サックスブルーのリボンに手をかける。
あけていい?と聞いたら、周はちょっと照れくさそうに頷いた。
しゅる、とリボンを解いて中を開けば、あらわれたのは金色の円形で、「なに?」と尋ねると、すかさず周が「懐中時計だよ、お年玉で買いました」と言った。
懐中時計。
聞いたことはあるけれど、今まで実際に見たことはなく、
どういう場面で使えばいいのか分かっていなかった。
だけど、私は実用性に欠けていて、
なくてもあまり困らないような意味の分からないものが好きだった。
時計を持ち上げて空にかざすと、金色の円の輪郭が上品に光る。
華美でも派手でもない、アンティークな装いにうっとりしてしまう。
ずっと隣にいただけあって、瀬戸周は、私のことをよく分かっている。
「周」
「うん?」
「すごく、嬉しい。気に入った。ありがとう」
「うん、これ、音も鳴るんだよ」
私の手から周は時計をさらって、何やら操作しはじめる。
カチカチ、と歯車の音がして、
その数秒後にか細い高音が、ぽろん、ぽろん、と私と周の間に浮かんだ。



