きみは幽し【完】







灯台の下にたどりついて、コンクリートの上に座る。



水面には光が浮いている。今日は、海猫の数は数えないでおこうと決めていた。靴下の高さが違う。それも気にしないでおくことにした。



大人になる。

高校を卒業したからといって、いきなり明日から子供じゃなくなるわけではないけれど、私も周も少しずつ、少しずつ大人になっていく。

小学生の頃、同じくらいの背丈だったのに、今では周の方が遙かに高いし、私の胸は周よりもかなり膨らんでいる。目に見えて成長している部分の後ろ側で、私たちは秘密の儀式を重ねて、違う方向にこころを成長させていた。



「周ー」
「うん?」
「……大人になるってどういうことだと思う?」
「いきなり聞かれても困るよ、それ」
「でも、私はいきなり聞くタイプだって、周ならご存知かと思いましてね」
「そうだなあ、うーん。……諦めることじゃない?知らんけど」



諦める、か。
寂しいことを言う。

ふうん、と唇を尖らせたら、花ちゃんは大人になってもずっと変わらないでいそう、と首をすくめて笑われた。



波がテトラポットに当たって、そこに波の花が生まれる。


それをしばらく見下ろしていたら、
花ちゃん、と隣から周が私を呼ぶ声が聞こえた。

顔を向けると、はい、と綺麗にラッピングされた小さな箱を差し出される。その箱は、私が好きなサックスブルーのリボンで、丁寧に飾り付けされていた。