へとへとになりながらもなんとか最後まで周は自転車を漕ぎきって、私たちは坂の上までたどり着く。周の額には冬と春の狭間には相応しくない汗粒が浮いていた。
「ありがとうよ」
「はあ、どういたしましてよ」
「制服で海は、今日が最後よ」
「うん、そうよ、花ちゃん」
「ざぶん、する?」
「ふす、しないしない」
「つまらんな、周は」
「花ちゃんが、大概ぶっ飛んでるだけだよ」
周は、国道線の標識のしたに自転車を置いて、
サドルにボタンのない可哀想な学ランをかけた。
カッターシャツの白色が眩しい。
きみは、やっぱり今日もきらきらしている。
私は、瀬戸周の輝いた部分を見つけるのが密かに好きなのだ。
理由は、単純明快。楽しいから。たったそれだけのことだ。
「行こうか」
頷いて、階段に足をかける。
降りた先に海があって、隣には周がいて、私は笑っている。
階段がずっと続けばいいのに、と馬鹿なことを思った。
何かを求めていることのほうが、
手に入れてしまうことよりも信頼できる。
鼻歌を奏でれば、周もそれに重ねるように低音を紡いだ。
幸せとはこのことだ。
このまま、何もかもが変わらなくていい。
そう思いながらも、実はこの日、
私はずっと隠していた秘密を瀬戸周に打ち明けるつもりでいた。



